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断酒が作り出す共同性―アルコール依存からの回復を信じる人々

『「そばにいる」ことのパワー』
アル中者の断酒を目的として結成された自助団体であるアルコホーリクス・アノニマス(AA)について、その思想・宗教的な背景や社会・心理学的な機能を考察した本である。当事者の辛く厳しい実践を詳細に探索しつつ、現代人の宗教性の在り方を問うた専門的な著作でありながら、学術書としての体裁を失わない範囲でギリギリまで読みやすく書かれており、非常におもしろく読める。
AAはしばしば、当事者による体験の「言いっぱなし、聞きっぱなし」のためだけの集まりと誤解されがちだが、その誤った見解を批判するためにも、著者はこの集団がつくり上げている独自の共同性の構造を解明していく。AAでは、アル中者が家族や世間に対して行ってきた過ちへの罪責感が一時的に免除される場が提供され、それぞれがその罪責感に冷静に向き合うための時間が与えられる。また、そこでの当事者の語りは一見好き勝手なようでいて、実はある程度のルールがあり、彼らの独自の体験(談)が、一定の理想的な型にはめられれるように方向づけられている。そして何より、断酒の継続という最大の難問に、共にとりくんでいくための仲間たちがそこにはいる。断酒の決意表明を率直に語ることができ、それに心から共感してくれる人々が、そこには常に存在しているのだ。そもそもAAが成立した日とは、その創始者の男性二人が、互いの断酒の協力に成功した日だったのである。
この様な共同性を構築しているAAは、「宗教」との密接な関係性を保ちつつこれまで存続してきた。著者は、AAの成立と展開に見られるキリスト教(教会の活動)との葛藤や、それとの兼ね合いで参照された心理学説(ユングやジェイムス等)との交渉の過程を跡付け、またAA当事者にみられる「霊性」の意義を考えていく。AAでは「ハイヤー・パワー」や「自分が理解した神」といった、宗教的でありながらも既成宗教とは一線を画した独特の概念が使用されるが、そこにこそ宗教性の現代的な表現が見て取れるのだと著者は理解するのだ。
以上の、AAの共同性と宗教性の構造を理論的につなぐために応用されているのが、コッフートによる「自己対象」の発想である。人間が安心して生きていくためには、自己を評価し自己の理想となり自己と共に歩む自分に似た人間(≒重要な他者)が不可欠である。その自己対象として自己をサポートしてくれほとんど自己の一部として感じられる仲間たちの集まりが(特定個人ではなく集合性が)、「ハイヤー・パワー」として認知され、自分を困難から救い出してくれる力となる。こうした集団のもつ力は、実に「宗教的(スピリチュアル)」といって差し支えないだろう、と著者は考えているのである。
ただ「そばにいる」。それだけのことが、時に「宗教」を想起させるだけの超越的な力を持ちうる。よく考えてみると、これはちょっとすごいことではないか。

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